「〇〇さん、なんか辞めそうだな。大丈夫かな…」
スタッフからの不穏なサインに、院長先生は気付くことができていますか?
そして、スタッフが退職する「理由」。本人の“声”を正しく聞くことができていますか?

スタッフから「退職を考えています」と伝えられたとき、驚きや困惑、そして、「なぜもっと早く相談してくれなかったんだ!」という残念な気持ちになってしまうことはありませんか。
先生、スタッフのこと、
正しく見れてますか?
先生、今、医院のピンチです。
スタッフからのSOSが発信された今こそ、スタッフとの信頼関係を見直し、真のコミュニケーションを図る重要なタイミングです。
スタッフ定着率のカギは
退職するスタッフの“本音”にあり!
多くのスタッフは退職の理由を、「家庭の事情」「体力的にしんどくて…」「ステップアップのため」といった“無難な言葉”で包みます。
しかし、本音は――
「頑張っても評価されていない気がする」
「院長が話を聞いてくれない」
「スタッフ間の人間関係がつらい」
「忙しいのに改善される気配がない」
このように職場環境や人間関係に対する不満であることは、先生も気付いておられるでしょう。

このような本音を聞いて、「ただのスタッフのわがままだ!」と思いますか?
ここで、「スタッフからのSOSである」、「医院の最優先すべき課題である」と受け取れる院長は、これからの医院の成長に繋げることができます。
最も恐れるべきは、この“本音”に気づかないままスタッフを退職させてしまうと、多くの場合は負のイメージが他のスタッフにも伝染してしまい、連鎖的に退職が続いてしまうことです。

これまで医院で経験を積み、患者さんとも心を通わせることができているスタッフは医院にとって代えがたい“財産”です。その財産を、今、一気に失ってしまうことになるかもしれません。
退職理由の「建前」に隠れた「本音」を探れ!
「先生には何を言っても大丈夫!」と思わせられる関係を
スタッフが本音を語ってくれるかどうかは、「院長先生との関係性」に大きく左右されます。
「どうせ言っても無駄だから」
「こんなこと言ったら怒られるかも」
「気まずくなるのがイヤだな」
普段の関係性が上手く構築できていないと、スタッフは口を閉ざしたまま退職届を提出するしかありません。
本音を引き出す“カギ”となるのは、「聞く姿勢」と「安心感」です。
- 日常的に、院長が「最近どう?」「何か不便なことない?」と声をかけているか。
- スタッフの意見に対して、否定ではなく「ありがとう」と返しているか。
そうした積み重ねが、「何を言っても大丈夫な空気」を作り出し、スタッフの本音を引き出す土台になります。
「引き留め」は“対話”であって“説得”ではない
退職を申し出たスタッフが優秀で、医院にとって必要な人材だった場合、多くの院長先生はとっさに、「もう少し頑張ってみたら?」「待遇を考え直すよ」と提案します。
ですがこれは、相手の気持ちが分からないままの“説得”に近く、本当の意味での引き留めにはなりません。
大切なのは、「スタッフが本当に悩んでいることは何か」を、“対話”の中でじっくり探ること。
- 「そっか、そんなふうに感じていたんだね」
- 「もっと早く気づけなくてごめん」

スタッフの訴えに先生が向き合う姿勢を見せることで、「もう少しだけ頑張ってみようかな」と、本人の中で“決意”が変わることがあるんです。
時には、第三者を交えて対話をしてみるのも有効
ときどき、院長先生から「引き留めてよ」と相談(依頼?)を受けることがあります。
人事評価制度の導入やミーティング支援を行う中で、実際に私がスタッフと対話する機会も多くあります。その中で私が心掛けていることは、院長目線で指摘を行うことではなく、まずは和やかな雰囲気でスタッフの声を「聞く」ことです。

そして退職の意思を聞いたうえで、引き留める目的で私が面談を行うときは、「退職希望スタッフの本音を聞く」、「本音を探る」ことをまず意識しますが、最も重要なのは、「こちら側の本音を見せる」ことだと思っています。
実際にスタッフの本音を聞いてみると、
「院長から評価されていない、必要とされていない」
「キャリアアップができない」
「医院の今後が心配」
など、医院の本音(要望)が見えないことに不安・不満を持っているケースが多くあります。
その声を聞くことができたのなら、それに対して、こちらの本音(要望)をきちんと伝え、「希望を持てるなら勤務を継続して欲しい」と声掛けします。

話を聞く時間をきちんと設けるだけでも、こちらの姿勢を見せることができます。スタッフの不満を解消することはできなくても、将来の擦り合わせができれば、最終的には「もう少し医院で勤めたい」と前向きに考え直してくれることもあります。
もしかしたら、それこそがスタッフの“本音”なのかもしれません。上長である院長先生には緊張して上手く話せなくても、第3者である私たちの方が気軽に話してくれることも…。
スタッフとは良い緊張感を持った関係でいたいと考えておられる院長や、世代差などでスタッフとの距離の詰め方に苦労している院長は、コンサルタントなど、第3者の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

すぐに使える「本音を引き出す対話フレーズ集」
それでは、実際に私がスタッフと直接話すときに意識している声掛けの方法をご紹介しておきます。
① 何気ない日常会話の中で
普段からの声かけが、スタッフの安心感につながります。
- 「最近、仕事の中でやりにくいところとかある?」
- 「無理して頑張ってない?何かあれば言ってね」
- 「院長先生が〇〇について褒めていたよ。なにか自分で工夫した?」
▶POINT☝
「気づいてるよ」「見てるよ」「味方だよ」というメッセージが伝わるよう、評価と気づきのセットで声をかけるのが効果的です。
② 困っていそうなときに
感情的にならず、気づきを共有する形でアプローチします。
- 「最近ちょっと疲れてるように見えるけど、大丈夫?」
- 「この間のミーティング、あまり話さなかったけど何か思うところがあった?」
- 「◯◯さん(同僚)とのやり取り、ちょっとギクシャクしてるように見えたんだけど、話せることある?」
▶POINT☝
決めつけず、“問いかけ”で開かれた対話にすることで、本音が出やすくなります。
③ 退職を申し出られたときに
説得ではなく、「理解すること」が最優先です。
- 「そう思うようになった理由、もし話せるなら聞かせてもらえるかな?」
- 「〇〇さんの感じていることを、ちゃんと知っておきたいんだ」
- 「辞めるって決めるまでに、どんなことで悩んでいた?」
- 「何か僕たちが見落としてたことがあるかもしれないね」
▶POINT☝
いったんは“受け止める”ことで、相手のガードが下がり、信頼関係を取り戻すきっかけになります。
まずは、日常にて小さな不満から見つけること。診療などで日常的なコミュニケーションが難しい場合、私がおすすめしているのが定期的な「ミーティング」の開催です。
院内ミーティングの工夫で、スタッフの「小さな本音」を拾う!

1.全体ミーティングではなく、「少人数グループ」で
人数が多い場では発言しにくいスタッフも多いため、3~4人の少人数でのミーティングを定期的に設けると、率直な声が出やすくなります。
2.発言のハードルを下げる「選択式」や「付箋方式」
「今、院内で改善してほしいことがある人、挙手してください」ではなく、
- 「3つのテーマから1つ選んでグループで話す」
- 「テーマに沿って全員が付箋に意見を書き、発表する」
といった、発言しなくても意見を出せる手段を取り入れることも効果的です。
そして、最も効果的なのは、1対1でスタッフと話す「面談」です。
なかなかスタッフとじっくり話すことができないという院長でも、賞与のための評価という名目にすることで仕組み化できます。年に2回、スタッフ一人当たり30分程度、「評価面談」を行いましょう。継続することで、「次の面談で話そう」と思ってもらえる環境をつくります。
「評価」を前提にしていることも重要なポイントです。
前述したように、スタッフが不満を持ちやすいのが「自身の評価」と「医院の評価」がズレてしまっていることです。これを、評価面談にて院長の理想(スタッフに頑張って欲しいポイント)とスタッフの目標を擦り合わせる時間とします。「給与制度基準表」や「人事評価シート」など、明確な人事評価基準にてスタッフに提示できるツールがあれば、現在地の確認や目標設定などをお互いが見てわかるようになり、スムーズに話を進めることができます。

最後に、最も重要なことをお伝えしておきます。
先生、もっとスタッフを褒めてください。
業務上、スタッフの良くない行いは緊急性が高いため注意の意思を伝達しますが、スタッフの良い行いを見た際は緊急性が低いために賞賛(褒める)の意思を伝達しなくなります。
この積み重ねが、スタッフと院長の信頼関係の齟齬に繋がっていきます。
「良い点は良い、悪い点は悪い」とバランスよく伝えることで、誤解が理由の退職希望を無くすことができます。
できれば日常的に。
退職を防ぐために、もっとも大切なのは「待遇の改善」ではなく「本音を引き出す関係性」です。
スタッフが安心して気持ちを話せる環境づくりが、定着率を上げる最大のカギ。
“退職の話が出たとき”ではなく、“普段から本音で話せるかどうか”を、今一度見直してみましょう。
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